京都大学附属図書館 維新資料画像データベース


吉田松陰とその同志展(平成6年度電子展示)

はじめに

[English]
 本学図書館の所蔵する維新特別資料文庫は、明治20(1887)年3月品川弥二郎(1843―1900)によって京都の高倉通錦小路に創設された「尊攘堂」(私設の教育啓蒙施設)に収集された資料群である。

 尊攘堂の由来を辿れば幕末にある。教育者・啓蒙家として名高い吉田松陰(1830―59)は、京都に尊攘堂を建てて、勤皇の志士を祀り、国民の志気を鼓舞したいと考えていた。しかし、安政の大獄に刑死し、江戸(東京)の獄中で入江子遠(九一)に後事(尊攘堂建設)を託したものの、子遠もまた禁門の変において敗死した。松陰の弟子であった品川弥二郎は、明治に入って、後事を託したこの子遠宛ての書簡に出会い、先師の悲願を実現しようと奔走し、尊攘堂を創設したのである。弥二郎は、尊攘堂に幕末維新の殉難志士の英霊を祀り、彼等の事蹟を示す資料・遺墨・遺品を極力蒐集し、堂内に収納し、丁重に保管した。同時に、毎年志士の慰霊祭を営み、その際には遺墨・遺品を展示して公開した。

 弥二郎の死後、尊攘堂保存委員会の委員であった松本鼎等は弥二郎の子息弥一等とともに、京都帝国大学の構内に尊攘堂を新築し、所蔵品をすべて同大学に寄贈することを決議した。明治33(1900)年10月、文部大臣にこれを要請し、許可されたのが翌34年2月のことであった。松陰が京都に尊攘堂を創設しようとした意図には、京都の地に大学校を設立し、天下の俊英を集め、国家有用の人材を育成することが含まれていた。前記子遠宛ての書簡に、このことが明瞭に述べられている。京都における大学の創設は、明治30(1897)年6月の京都帝国大学の開設によって実現した。そこに両者を結ぶ由縁があった。同36年4月、構内に尊攘堂が新築され、松陰の悲願、弥二郎の年来の宿願は達成された。その建物は、現在も図書館の西北に存在している。

 尊攘堂のコレクションには、書籍を主に、掛軸・巻物・屏風・額・遺品(刀、烏帽子、陣笠、軍扇等)・写真・拓本等が含まれている。先述した設立・蒐集の経緯から、松陰の書簡・上書・稿本等の遺墨、およびそれらの類縁資料が、このコレクションの中核となっているが、松下村塾(松陰が山口県萩に設立した私塾)に集まった高杉晋作(1839―67)、久坂玄瑞(1840―64)、木戸孝允(1833―77)、山県有朋(1838―1922)等長州(現在の山口県あたり)出身の志士の墨跡・遺品も豊富である。さらに、長州だけでなく日本全土の志士にも及び、しかも、階層からみれば皇族・藩主から微禄の士まで身分の如何を問わず、及ぶ限りの文献・資料が集められている。

 一方、明治33(1903)年の寄贈にあたって、尊攘堂保存委員会は、10月27日の松陰忌と、2月26日の品川忌には、尊攘堂を借用して慰霊祭を営むこと、および所蔵品を展覧して公衆の閲覧に供することを京都帝国大学に申請し、受け入れられている。当時の木下広次総長は、寄贈品を特別に保管するよう、島文次郎図書館長に命じた。島館長は、これらを貴重書庫に保管し、必要に応じて堂内に陳列することとした。以後20数年、協定どおり年2回の祭典は催されていたが、大正10(1920)年になって、年1回秋の小祭と3年に1回の大祭に変更され、昭和19(1944)年に貴重資料の疎開という事態が生じるまで、展示会は開催され、例祭は翌20年が最後となった。

 京都では建都1200年が記念されている最中にあって、本館におけるこのテーマでの展示会の開催は九度目(戦後は六度目)の試みになる。幕末から明治にかけて、大志を抱いて奔走した志士たちの思想・学術・行動を窺い知ることができ、明治維新史を解明するのに有用な資料群を展示することによって、日本の近代化の礎石となった志士たちの足跡を、吉田松陰を中心とした人物の流れの中で捉えるとともに、やがて100歳を迎える京都大学の創立に連なる歴史の一齣をふりかえってみることも、意義あることと思われる。

 今回の展示に際しては、人文科学研究所の佐々木克教授のご指導・ご助言をいただいた。また、図書館・情報の分野でコンピューター・ネットワーク化が推進されようとしている現状において、初めての試みとして電子図書館版の展示会の企画があり、これについては、工学部の長尾真教授のご指導・ご助言をいただいている。この場を借りてお礼を申し上げておきたい。展示会をコンピューター画面のいわば仮想世界で眺めることが、どのような文化感覚をもたらすか。この新しい試みについて、観覧された方々のご意見をうかがいたいものである。

 最後に、日常業務を果たすかたわら、この企画に精力を傾け当たってくれた京都大学附属図書館の職員諸氏の苦労をねぎらっておきたい。



1994年9月26日
附属図書館長 朝尾直弘


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