堀川辺のある生上達部の身よりない娘が石山観音参籠の折に、並び飛ぶ雁の姿をうらやむと狩衣姿の男が現れる。帰京後も交際は続くが、娘は夜しか通って来ない男を不審に思う。三月十日過ぎの一夜、男は来秋の再会を約して別れを告げる。翌朝軒から飛び立つ雁を見た娘は事情を悟る。ある夜、夢の中で見た雁の届けた手紙が現実にあり、帰路狩人に射殺されたことを知る。娘は乳母とともに出家、越後に草庵を結んで修行、のち往生を遂げた。
白描絵巻。絵と入れ込みに書き込まれた画中詞が登場人物たちのせりふを伝え、物語世界の内部を豊かにしている。同名作品で現存するのは本書のみ。なお書名は1940年に京都大学から複製が作成されたときに題されたものである。新日本古典文学大系『室町物語集』上には写真と共に翻刻、注釈がある。
(京都大学附属図書館創立百周年記念公開展示会図録より)