ふくらう
底本 京都大学附属図書館蔵本(4−40||フ||1貴)。刊本。 刊年・版元 不詳。
装幀 四つ目袋綴 雷文空押黒色表紙 本文料紙:楮紙
寸法 竪24.6cm、 横17.0cm。
凡例
一. 行数・字詰め等、原本のままに翻字した。
二. テキスト入力にはMicrosoft Word for Windows ,Version 7.0, ATOK Ver.10/R2を用いた。
三.適宜、句点を付け、会話の部分に「 」で括った。
ふくらう
中むかしのことなるに、かゝの國、かめわり
さかのふもとに、ふくろうといふ鳥あり、とし
を申せは、八十三、ある日の雨中のつれ/\に、
ふくろう、心に思ふやう、我、此としになるまて、
ゑいくわをきわめす、しよせん、ゑいくわをせん
と、からすの九郎さへもん、さきの新兵衛をち
かつけて、「いかに、皆々、聞給へ、あねはの枩山
とりの院にて、月なみのくわけんのあり
しとき、うそひめの、ことひき給ふ御すかた、
しつ心なきこいとなりて、心もこゝろならす、
つゝむにつゝまれす、いやましの思ひくさと
なるまゝに、かの御かたへ、たまつさことつけて
給はれ」と申けれは、
[挿絵]
からすの九郎さへもん、さきのしんひやうへ、こ
とはをそろへていふやうは、「おほせにて
候へとも、かのうそひめの御事は、七つ八つのとし
よりも、今日に至るまて、うへみぬわしさまの
御くとき候へ共、つゐに御返事もなき由、うけ
たまはり候、我等こときの物か、御文つかひを申
共、いかて、御返事あるへきそ、たゝおなしくは、山
からのこさく殿を御たのみ候へ、それをいかに
と申に、おさなきときよりも、おなしところ
にて、御そたち候へは、ことにかしこきかたなれ
は、さためて、一わうの御返事あるへき」と
申けれは、ふくろう、けにもと思ひ、山からの
やとへゆき、「いかに、山からとのきゝ給へ、そこつ
なる申ことにて候へとも、あねはのまつ山
とりのゐんにて、月なみのくわけんのあり
しとき、うそひめのことひき給ふ御すかた
を、一めみしより、よしなきこひとなり、身
のやるかたもなく候、をよはすなから、よのあさ
けりをかへりみす、かの御かたへ、たまつさを
をくりまいらせたく候、わりなき申ことな
から、ふみつたへてたひ給へ」と、うちなけき
申けれは、山から申けるやうは、「うそひめの
御ことは、うへみぬ御かたより、御心をかけさせ
候へとも、つゐに、御なひきもなきよし、うけ
給はり候へとも、あまりに/\、御心のうち、いた
はしく候まゝ、つかひ申へし」と申けれは
ふくろうよろこひ、ふみ、こま/\とかきに
けり、
[挿絵] ふくろう、やまがら
さて/\、なにゝとりてか、たかまのはらに
よそなから、みそめしよりこのかた、何とやらん、
心のうちのみたれかみ、思ひのたねとな□□□□
入江にちかき、あま小舟、こかれてものや思ふらん、
なにしにきみを、みくまのゝ、をとなしかはの、
ふちせにも、しつみはつへきとは、思へとも、君
になこりや、をしとりの、思へはいのち、なからへ
て、かみやほとけの、めくみにも、たのむかりねの
こゑをきゝまいらせんそのために、かきあつめ
たるもしほくさ、うつゝにもみる、たひねの
をくるまの、めくりあはんと、思ふきみ、思ひし
ことのはくさこそ、たとへんかたも、なかりけり、
されはうきよのその中に、かきりあらさること
はなし、ものによく/\たとうれは、み山のこの
は、そらのほし、きしうつなみと、まさこをは、
かそへはかきりありぬへし、そのほか、たう
と、てんちく、わかちやう、きらいかうらい、けい
たんちく、みせん、大せんせかいのちくるいも、虫
けた物にいたるまて、かそへはかきりありぬ
へし、ほけきやうは、一ふ八くわん廿八ほん、もし
のかすは、六まん九千三百八十四字につもれり、
大はんにやきやうは、六百くわん、もしのかすは、五十
九おく四十八まんしにつもれりと、うはうさ
くか、九せんさい、りうちくわしやうか一せんさい、
うらしま大郎か七百さいも、かきりあるよし、う
けたまはり候へとも、きみを思ひしことは、かき
りなし、ものによく/\たとうれは、春のはな、
あきの月、そとおりひめか、みなつるか、をのゝ
こまちか、ひしやもんのいもうとに、きちしやう
てん女か、まつらひめ、むらさきしきふか、こしきふ
か、いつみしきふか、こかうのつほね、たいしよ
くわんのをとひめ、けんそうくわうていの三
千人のそのなかに、たい一のきさき、やうきひ、けん
し六十てうのにうはうたち、このほか、ゆう
ちよ、かす/\おほしと申せとも、きみにをよふ
人はなし、されは、ふるきうたにもよまれたり、
なさけにはいやしき袖はなき物を
あらさてやとれよいの月かけ、とよみをかれ
けんも、かやうの思ひよりはしまれり、かみは
きよくろうきんてん、しもはしつかふせやまて
野にふし、山をいゑとする、こらうやかんのたくひ
まて、なさけはありとこそきけ、一さいのしやう
るいのその中に、このみち、しらぬものはなし、か
やうに申ことのはを、たゝおほかたにをほす
なよ、御返事なき物ならは、うき世はふち
やうのならひ、たかひにきえはて、まいらせて、
こんせうにてのをんねん、又らいせにてのうらみ、
しやう/\せゝにいたるまて、ちこく、かき、ちく
しやう、しゆら、にかんけん、この六たうをあり
かんとき、みぢん程もはなれすして、くるり/\
とをいめぐり、うきもつらきも、のちのよにて
申へし、もし、このこと、うへみぬわしさまへもれ
きこえ、しさいにをよはんそのときは、しての
山、三つのかわを、こすときに、てにてをとり
くんて、せつなかあいたに、うちわたり、ゑんま
のちやうにまいりつゝ、あはうらせつに、かしや
くせられんこと共、うらみとさらに思ふまし、
さて/\、此こと申つたへんそのために、しやう
めつ/\のかねをきゝ、八こゑのとりをうち
すきて、是生めつ法のかね、ろう/\とうち
ひゝき、はやしのゝめに、たちあかしつゝ、ついに
いつともみへもせす、きみゆへまことのとかもな
き、かみやほとけをうらみつゝ、きみゆへ身をも
やつれそひ、人めつゝむことなれは、あはれと
とはんかたもなし、かゝる思ひをしなのなる、あ
さまのたけに、たつけふり、むねよりやたち
ぬらん、花に三しゆんのやくあり、いかてなさけ
をかけさらん、されと、うきよのならひには、かせ
になひくしのたけも、こてふにしたしむなら
ひあり、みつにうもるゝうきくさも、ほたるに
ひとよのやとをかす、こくうをてらす月たにも、
かつらおとこにやとをかす、一とをり、一むらさめの
あまやとりも、たしやうのえんとうけ、御はる
一かのなかれをくむことも、たしやうのえんと
きゝぬれは、をよはぬこいをする人は、かみもあはれ
とおほすらん、かすならぬわか袖の、かはくまもなき
うきくさの、こけのたもともくちぬへし、まつこと
はりもかれ/\に、なりゆくそてもしら雲の、たち
まよひゆくありさまにて、ふてをとゝめ申也」、かやう
に、かきしたゝめて、山からのこさく殿にわたしけり、
そのゝち、ふくろうふつちんさんほうにき
せい申ける、中にもみやまのやくしへ、くわんしよ
をしたゝめてこめける、なむやくし、るりくわ
[挿絵]
う如来、かのうそひめの、わかたまつさの、うそ
ひめへ、まことにとつき、よろしき御返事を
給はり、それかしに、ゑみをふくませ給ふ物なら
は、やくしの御ほうてんを、きん/\をちりはめ、
こかねのやうらく、めなうのゆきけた、はりのは
しら、にしきのとちやう、すいしやうのきりいし、
きん/\のいさこをしき、いけには玉のはし
をかけ、極楽浄土をまなふへしと、かうへをちに
つけ、きせい申さるあひた、山からこそ、かの御やとへ
ゆき、色ゝの物語をはしめつゝ、そののち申いたし
けり、「まことに、これまてまいること、へちのし
さいて、さらになし、たとへは、かめわりさかのふもとに、
ふくろう、そもし殿を、こいにして、あけくれ袖を
ぬらさせ給ふ、つゝむにつゝまれすして、それかし
を御たのみ候程に、参りて候」とて、かの御ふみを
とりいたしまいらせけれは、うそひめ、これを
うけとらす、山からのかたへなけ返す、山から、
とりあへす、一しゆのうたをよまれたり、
「ふくろうのわれをたのみし玉つさをむ
なしくいかてかへしいつへき」とよみけれは、
うそひめ、へんかにをよはす、山からにいふやう
は、「まことによく/\きゝ給へ、としころ、うへみぬ
御かたより、さま/\の御ことのかきりあらねとも、
こ返事も申さす候へとも、そもしの御つかひに
ましませは、ことかりそめの水くきも、いかて
はかなくもらすへし」とて、御返事をそあそはし
ける、
[挿絵]
「あからさまなる御ことのは、まことにみつく
きのあと、うちをきかたくなかめ候かし、さて
は、かすならぬ身に、心をかけさせ給ふかや、返事
にをよはす候へとも、ふみの中、をそろしく思ひま
いらせ候て、ことかりそめの申ことにて候へとも、
わか身はいやしき物にて候へは、そもしは、かつらき
山のかみのゆかりにてましませは、まことしか
らす思ひまいらせ候、みつほのあはのかりそめに
末も、とをらぬ物ゆへに、あたなたちてはなにかせん、
中/\人には、はしめより、とはれぬうらみのあらは
こそ、さりなから、そもしと、こんやのきえんうす
くして、ちきりしこともよもあらし、こんよす
きて、又こんよ、てんにはなさき、ちにみなり、さいは
うのみたのしやうとにて、ちきりなん」、とかきとゝ
め、山からのわたしけり、山からなのめならすに
思ひて、いそきかへりて、ふくろうとのにそ、たて
まつりける、ふくろういたゝき、ひらいてみるに、
おかたし、なみたることのはなり、やまからも、
さもきよくなけなるふせにて、かへりける、
さる程に、ふくろう、あまりにことのものうさ
に、このはかきよせ枕とし、少まとろむところ
に、ゆめをそみたりける、「われは山のやくし
なり、さても、うそひめのかたより、よき返事にて
候を、それをしらすして、さとらんことのふひんさ
よ、こんよ過て又こんよとは、あすのよのこと也
てんにはなさきとは、月ほしいてさせ給ふ
ことなり、ちにみなるとは、ほのかにあかく
なることなり、さいはうのみたのしやうとと
は、これよりにしのあみたとうのことなり、
それにて、あすのよの月いて候はぬにあはん」と
おこさせ給ふとゆめにみて、かつはとおきて
いふやうは、「うそしるしなり」と思ひ、にはかに、したく
して、あみたたうへそゆきにける、さるあひた、
かのところに、よもすからまちにける、よ中の
ちふんに、すこしまとろむところに、うそひめ、
十二ひとへをひきかさり、めのとのにうはう
ひきつれて、あみたたうへそゆきにける、ふく
ろう、まとろむすかたをみて、けおこし、そこに
て、一しゆのうたをよまれたり、うそひめんの御うた
「おもふとはたかいつはりのうそとかし
おもはねはこそまとろみそする」、とよみ
けれは、ふくろう返哥に
「よひはまちよ中はうらみあか月は
夢にやみんとまとろみそする」、とよみけれ
は、
[挿絵]
うそひめ、此うたをきこしめして、うちとけかほ
にて、「御ものかたりいたしまいらせん」と、ひよく
れんりのちきりをそこめけれは、ふくろう
あまりのうれしさに、中にもかやうにうそ
ひめのね物語のやうは、あまのしわさや、もし
ほくさ、ほやのけふりにあらねとも、はやうらかせ
に、うちなひき、さゝめこと、さま/\なり、そのゝち
ふくろうも、「さて/\、このほとのきみに心をつくし
ふね、こかるゝことのかなしかりしに、つゐに、あふみ
のかゝみ山、むかふ心のうれしさよ」、又、「そもしは、おとに
きゝしたきの水、かやうに、おちあひまいらせん
とは、ゆめにもさらにしらさりし、ゆふ/\と
御物語申たく候へとも、人めをしのひまいり候、
はや/\かへりまいらせん」と、十二ひとへのさまを
ひきかへ、はやかへらんとせんとき、ふくろう、あまり
のかなしさに、なく/\哥をよみ侍りける
「かたいとのくる程ならはとまれかしふかき
なさけはよるにこそあれ」、とよみけれは、又、
うそひめの御返哥に、
「かりそめにふしみの野へのくさまくら
つゆほとゝても人にしらすな」、とよみすてゝ、い
そきやとへそかへりける、もろ/\のとりとも、
このよしをきゝをよひ、うそひめのかたへ
こしおれなりとも、一しゆをくりまいらせん
と、おもひ/\にうたをそよみ侍りける
[挿絵]
「きみゆへにみをすみそめに
そめなしてみやまからすと
なるそかなしき」、
「我こひをたかしらさきの
ねかひにはきみといはやに
ふたりすまはや」、
「四十からいまこのとしになりぬ
まてあはぬこひにそ身を
やつしける」、
[挿絵]
「うそひめを思ふこゝろは
ふかくさの野へにいつまて
ねをやなきなん」、
「かすならぬすゝめのおほき
こゑよりもわかひとこゑに
なひけうそひめ」、
「みしよりもそのおもかけに
あこかれておとりまはれと
あはぬきみかな」、
[挿絵]
「このきみのなさけをふかく
かうふりて未たのもしく
ふすよしもかな」、
「うそひめのなさけをほろと
かけられてよになきとりと
人にいはれん」、
「おもひきやつれなききみをこひ
にして夜はにかたみをとつ
てこふとは」、
そのゝち、かへにみゝ、いわのものいふ、よのなら
ひ、このこと、うへみぬわしさまへもれ聞え、ふく
ろうのかたへ、はいたかのころくを、うつてにむけ
られけり、しかるに、ふくろうは、はやくきのかけ
におちにけり、れうけんなくして、うそひめを
かいし給ふ、このよし、ふくろううけ給はり、おき
ふしなけきしつみける、めもあてられぬふせい
なり、せめて、はらをきらんとて、かたなにてをかけ
給ふ所を、ふくろうのゑんるい、みゝつくのきす
き、いけん申けるは、「はらをきり給はんより、
うそひめのなきあとを、御とふらひ候へ」と申
けれは、ふくろう、けにもとて、おもひとゝまり、
そのゝち、みたをたのみて、あつさにかけにけり、
まつ、かみおろしをそはしめける、かみはほんてん、
たいしやく、四大てんわう、ゑんまほうわう、五
たうのみやうくわん、わうしやうのちんぢう、八満
大ほさつ、かすか、住吉、北野天まん大ちさい天
しん、いせてんせう大神、山にはやまのかみ、木
にはこたまのかみ、ちにはたうろうしん、河には
すいしん、くまのはみつの御やま、ほんくう、やく
し、しんくうはあみた、なちはひれうこんけん、
たきもとはせんしやくわんをん、あつたの大
明神、ふしのせんけん大ほさつ、しなのには、
すは上下の大みやうしん、善光寺のあみた
によらい、なむ三せの諸仏をしやうし、おとろ
かしさふらふそや、
[挿絵]
「さて/\、こんしやうの花のゑん、かやうに
ちかはてまいらせ候へきとは、夢にもさらに
しらさりしに、思ひもよらぬあつさのこゑの水
のたむけ、かたしけなや、まことに/\、かいらう
とうけつのかたらひも、えんつきぬれは、かいも
なく、ひよくれんりのことのはも、つれ/\に
なるさゝめこと、まことに、さんてんのうちの
たるゑほしに、申たき事のうみやま、かたり
ても/\つきせし、かつ/\そのとき、なこり
おしきこと、こせのさはりになり候そや、さて
も/\、ふしきなることにて、かやうに候や、さり
なから、思ひきり、これ/\も思ひ候へとも、きうせん
にかゝり、まいらせ候間、よる六と、ひる六と十二と
きのくるしみ、御すいりやうし給へ、かたるははて
もなし、ゑんまのまへをしのひて、これまてま
いりて候そや、いさや、たましい、みたのしやうと
へいそくへし」、そのゝち、ふくろう、なを/\なけ
きまさりけり、はや、うきよによしもなく、もと
ゆいきりて、にしへなけ、かうやのみねに
あかりつゝ、おくのゐんにて、かみをそり、それ
より、みくまのにまいり、みつの御やまをふし
おかみ、そのゝち、しよこくをめくりつゝ、かやう
になりはてぬるも、たれゆへそ、露ときえにし
うそひめの、ほたいをとはんためなれは、うしそ
とさらにおもはぬなり/\、