「國女歌舞妓繪詞」は京都大学附属図書館が収蔵する稀覯書の一 つである。大正三年当館の有に帰して以来、諸学者の注目喧伝する ところとなり、これに関する論考もすでに相当の数に上っている。 本書が我国演劇史上にもつ資料的価値についてはあらためていうま でもない。その間の説明は解説において詳である。
諸般の研究に対し多大の価値を有する稀覯の文献を正確な複製に よって公刊し、より広き利用に供することもまた有力な図書館の責 務の一つでなくてはならない。当館所蔵の稀書を影印に付し、逐次 複製頒布して広く学界の利用に供することは従来よりわれわれの大 きい念願であって、すでにその遂行を見たものもあったが、戦後こ とに多大の経費を伴う事などによって、その計画は常に中断し勝ち となり、従って限られた研究者のみがその恩恵に浴し得るにすぎな かったことは、われわれの常に遺憾としたところである。ことに輓 近においては海外諸国においてもこの種の文献の利用を要望する声 が高く、これらの要請を満たし、互に貴重とする文書の利用をはか る方途については将来更に一層の真摯な考慮が払われなければなら ないと信ずる。今回この種の出版物には従来とかく考慮される事の 少なかった英文に依る解説を併せ付したのも、学術資料の国際的利 用を考慮に入れた結果であり、同時に当館が海外諸国の大学・研究 所・有識の個人等より受けつつある好意に応える一つの方法たらし めようとしたためである。
和文に依る解説は当館和漢書掛の水梨弥久・鈴鹿蔵両君が之を担 当し、英文の解説は事務長小倉親雄君の執筆にかかるものである。 これら三君が日常劇務の傍、これが刊行の一切を極めて短時日の間 に、而も満足すべき成果をもって遂行した事については、まことに 感佩に堪えないと共に、図書館員は単に司書事務に対する専門技術 者たるに止らず、同時に研究者としての重大な責務を果し得るもの でなくてはならないとする我々の持説を十分に充たして呉れた事に 対しても心からの欣びを感ずるものである。
昭和二十六年三月三日
京都大学附属図書館図書館長 泉井久之助